スラーの基本
スラーには音を滑らかに繋ぐ意味の他に,フレーズのひとかたまりを表す長いフレーズスラーがあり,ピアノ譜だと両者が重なることもしばしばあります。普通のスラーは音符に ( 丸括弧 ) を付けて始まりと終わりを指定しますが,長いフレーズスラーはバックスラッシュ \( \) を付けることで長い小節に跨ったスラーを付けることができます。
\relative c' {
\partial 4
g4(\( c2 b4 c) a2( g4) c( d4 e8[ d] e4 c) d2 d4\) s4 }

^\( のようにサーカムフレックスを付ければフレーズスラーは上部に書かれます。
和音間のスラー
単音の場合と同じく,<c e g>4( <c f a>)のように和音から次の和音へスラーもかけることができます。この場合,和音全体に一つのスラーがかかります。和音中の特定の音にのみスラーをかける場合,下の二番目の例のように<和音> 内部の音に(括弧)を付けます。この場合は単音のみとなります。
\relative c' {
<c e c'>2( <d b'>2)
<c e( c'>2 <d) b'>2
<c\=1( e c'\=2^(>2 <d\=1) f\=2)>2
}

スラーを付ける音を指定するには,それぞれのスラーの始まりと終わりの音符に番号を付けて区別する必要があります。番号は \=1, \=2 のように書きます。同じ番号の音符同士にスラーが描かれます。
五線譜をまたがるスラー
ピアノ譜では左手から右手へと繋がったスラーがしばしば出てきますが,スラーの始まりと終わりは同じ声部にある必要があります。左手の音符をト音記号の五線譜へ持ち上げれば,同一声部となってスラーをかけることができます。五線譜をまたぐには \change を使います。
最初に \score で上下の五線譜に名前を付けておきます。下の例だと右手が right ,左手が left となっています。
左手2拍目と4拍目がト音記号側に来るように,\change Staff = “right” と指定し,その後また \change Staff = “left” でへ音記号側に戻しています。
melodyRight =
\relative c' {
<c e g>1
}
melodyLeft =
\relative c {
c16[_( e g c]
\change Staff = "right" e16[ g c e)]
\change Staff = "left" c,,16[( e g c]
\change Staff = "right" e16[ g c e)]
}
\score {
\new PianoStaff <<
\new Staff = "right" {
\clef treble
\melodyRight
}
\new Staff = "left" {
\clef bass
\melodyLeft
}
>>
}

声部をまたがるスラー
滅多に無いと思いますが,どうしても声部を跨るスラーが必要な場合,同じ声部の中に見えない音符を作っておいて,そこをスラーの始点・終点にすることができます。音符を不可視にするには \hideNotes を使います。次に \unHideNotes が出てくるまでの音符が見えなくなります。
<<
\relative c'' {
d16[ g f as~] as16[ as g f]
\hideNotes es16(
\unHideNotes c'8[ b16] c4) }
\\
\relative c'' {
d4 b4 es8[ f] r16 g16[ as f] }
>>

Cの音の前に見えない16分音符のEsが置かれ,スラーがそこから始まります。
スラーの形を調整する
自動的に適切なスラーの形状が得られないなら,手動で形を調整することになります。
次のような譜面を考えます。左手から右手にスラーをかけるために,\hideNotes で右手最初に見えないCの音符を置いておきます。左手の3,4拍目はs4を使って空白にします。
\score {
\new PianoStaff <<
\new Staff {
\clef treble
\relative c, {
\hideNotes c4( \unHideNotes s4
}
\relative c' {
c8[ g' e' c])
}
}
\new Staff {
\clef bass
\relative c, { c8[ g' e' c] }
s4 s4
}
>>
}
全体にスラーをかけると次のようになります。

スラーの終わりは良いものの,開始箇所が少し不自然です。このように譜面に跨るスラーの場合はS字になるようにしたほうが自然に見えます。
LilyPondのスラーは3次のベジエ曲線で描かれるので,4つの制御点を微調整します。これには \shape 関数を使います。\shape は4つの制御点パラメータを取ります。調整するスラーの前に次のように入力します。
\score {
\new PianoStaff <<
\new Staff {
\clef treble
\shape #'(
(0 . 0)
(0 . 3)
(0 . -3)
(0 . 0)) Slur
\relative c, {
\hideNotes c4( \unHideNotes s4
}
\relative c' {
c8[ g' e' c])
}
}
\new Staff {
\clef bass
\relative c, { c8[ g' e' c] }
s4 s4
}
>>
}

\shape にある最初の (0 . 0) は開始点の位置の調整分で,例えばここを(5 . 0) にすると,スラーの開始点が右側に移動します。同様に4番目は終了点の調整分です。
2, 3番目はベジエ曲線の形を変えるのもので,高さ方向を3, -3と変化させることでなだらかなS字曲線になります。
入力したパラメータでスラー形状がどう変化するかを知る簡単な方法はなく,試行錯誤で見栄え良いスラーを探すほかないようです。
