Life in Los Alamos

Daily Life in New Mexico


5月の物語,幽霊

家賃の安さに釣られて,先月このアパートに越してきたのだが,その破格の家賃の理由を理解するのに時間はかからなかった。俗に言う事故物件である。

寝る前に枕元に置いたはずの携帯がキッチンに移動していたときは,てっきり自分の勘違いだろうと思った。本棚から本が落ちたり夜中にトイレの水が勝手に流れても,単に偶然だろうと思った。最初に異変に気づいたのは,朝起きたときにアパート中の灯が点いていたときだった。幾ら何でも深夜うっかり全部のスイッチを入れたりしない。

異変は次第にエスカレートし,お風呂からお湯が溢れていたり,深夜に突然大音量でCDが鳴り出したり,だんだんと僕の精神も参ってくる。この連休,何とかしてその瞬間を見てやろうと,一晩中部屋を見張ることにした。

部屋を真っ暗にしたまま,些細な変化も見逃すまいと,ベッドの上から部屋の様子を伺う。部屋には凍った時間だけが流れ続けたが,深夜2時を回った瞬間,テーブルの上に置いてあった空の缶ビールがぱたりと倒れて転がった。

「そこに居るんだろう」

僕の声に,彼女がゆっくりと姿を見せた。テーブルの横に,髪の長い痩せた女の子がうつむいて無言で座っている。心臓が止まりそうなほどドキリとしたが,声を振り絞った。

「君は誰?」

彼女は,しばらくの間無言で,やがて少し泣きながら語り始めた。男に裏切られて絶望し,この部屋で自ら命を断ったこと。この部屋に誰も入れまいと,住人を追い出していったこと。

それから毎晩,彼女は僕の前に現れ,全てを語り尽くした。生前の彼女に起こったことは,不幸を通り越して恐怖ですらあった。連休が終わって僕は仕事に戻ったが,彼女は消え去るどころか,姿を現す時間を伸ばしていった。

やがてアパートに戻るとすぐに彼女は現れるようになり,時々は夕食を作って,テレビを見ながら待っていることもあった。一年も経つと,ビールにつまみがテーブルの上に散乱している始末である。

運動不足の上に呑んだくれの彼女はみるみるうちに体型を崩し,今ではもう関取である。流石に僕も耐えかねて言った。

「なんだそのだらしない体型は。あの薄幸の美女はどこへいったんだ」
「えー,だって,あたし地縛霊だから,外出できないのよね」
「勝手に太ってるだけなら,除霊して追い出すぞ」
「太ってないわよ。幽霊だもん,体重は今もゼロよ」