5月の物語,告白

学生生活も残り一年を切った。連休恒例のサークルの合宿も今年が最後の参加となる。偶然同じサークルに入って以来,彼女のことがずっと気になっていた。僕が意識していたのは,彼女の方も何となく分かっていたと思う。この機会を逃したら,あとはそのまま社会に出て,ゆっくりと彼女への気持ちが心の奥へ沈んでいくことだろう。そうなったら一生後悔する。彼女が一人になるチャンスを待ち,勇気を出して告白した。

「あのさ,付き合ってほしいんだけど」
「あたしと?」
「うん」
「なんでもしてくれる?」
「うん,もちろん」
「じゃあ,私に話しかけないって約束して」
「え?」

彼女はにっこり笑って去っていった。

その後のことはよく覚えていない。生気を失ったまま日々を過ごし,大学を卒業し,地元の企業へ就職し,数年後に職場の同期の女性と結婚した。

彼女に声をかけたあの日のことは,今でも思い出す。あれでよかったんだと,自分に言い聞かせている。今の生活だってそれなりに幸せだと思う。不満があるとすれば,女房の極端なテレビドラマ好きなことくらいか。9時から始まるお気に入りのドラマがある日は,夕食も10時までおあずけとなる。

さすがに10時まで空腹を我慢するのは辛い。女房はテレビ画面を見つめたまま身動き一つしない。我慢できなくなり,先に食べてよいかと恐る恐る尋ねてみる。

「あのさあ… ご飯,先に食べても。。。」
「あたしに話しかけない約束でしょ!」