30畳の一夜

ごく普通の二人はごく普通の恋をし,ごく普通の結婚をしました。ただ一つ違っていたのは,旦那様は理系オタクだったのです。二人が新婚旅行の温泉旅館で通された部屋,そこは大宴会場。

「すごーい,こんなに広い部屋に泊まるの初めてよ。30畳くらいありそうね」

「くらいなんて言わなくても,簡単に計算できるじゃない。ほらこの畳2枚でワンブロックと考えるんだよ。これが縦に3つ横に4つあるから,3x4x2=24畳さ」
「そ,そうね。ちょっと少なかったわね」
「ちょっとって,20%も違ってるじゃないか」
「...ええ,まぁ」


「こんな部屋に泊まれることなんて滅多に無いんだからさ,最大限に利用しようよ」
「どうやって?」

「まず会話を分かり易くするために,部屋の各コーナーを次のようにA,B,C,Dと定義しよう」
「分かりやすいかしら」
「利用する面積を最大にするには,僕らのスーツケースを対角線上におけばいいんだよ」
「でもそれって不便じゃない?」
「大部屋の中で縮こまって生活するなんて庶民の旅行だよ。僕らは新婚旅行なんだよ」
「...そうね」
「じゃあ,君のスーツケースはAコーナー,僕のはDだ」
「お布団はもちろん真ん中よね(はあと)>
「何言ってるんだよ」
「え,もしかして...」
「まだコーナーB,Cが残ってるじゃないか」
「じゃあ,私はコーナーC?」
「ううん,君はコーナーB」
「でも着替えるだけのために,コーナーAからBまで歩かないといけないの?」
「あたりまえじゃん。もし君の布団がコーナーCだったら,33.3%も長い距離を歩かないといけなかったんだよ」
「そうなの?」
「エネルギー消費を最小限にするように考えないと」
「そ,そうね。さすが国立大学で学位を取っただけあるわね(地方だけど)」


「僕のパジャマはどっちに入ってるんだっけ?」
「ええっと,多分あなたのスーツケース。あ,もしかしたらあたしのに入れたかも?」
「つまり僕がパジャマをスーツケースで見つける確率は,それぞれに対して50%ということだね」
「そう...いう事になるのかしら...」
「こういう場合は期待値を最大にするようにすればいいんだよ」
「どうやって?」


「位置Aの確率が50%,位置Dが50%だから,P(x)=0.5δ(x)+0.5δ(1-x)を最大にするxを求めればいいんだ。ちなみにxはAからの距離を対角線ADで割った値だ」
「はぁ…」
「こんなの,僕のMosBookがあれば簡単に計算できて...おぉすごいぞ,解は位置AもしくはDだ!」
「へぇ…」
「つまり,効率を最大にするにはさ」
「ほぇ…」
「対角線上に寝れば良いんだ」
「…」
「はっ,しまった!」
「どうしたの?」
「対角線上に僕の体を配置するには」
「はぁ?」
「30畳の部屋は広すぎることがわかった!」
「24畳よ」