何度と無く,その宝飾ブランド店の前を行き来した。店内の人影を横目で確認しつつ,店員が接客してるのなら,いきなり声をかけられる事もないだろう。まずはゆっくりとショーケースを眺め,交渉はそれからだ。
表のショーウィンドウに並ぶペンダント,指輪,どれも値段の表示は無い。デザインで選んでくれという店の強気が斥力となり,僕をさらに遠ざける。
と,そのとき,店内の暖かい空気が通りに流れ出し,刺すような空気を和らげた。にこやかに手を繋いで店から出てくる二人を脇に流すように店内へとよろめきこんだ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
いきなりサシの勝負である。しかも美人の店員である。もう後戻りはできない。
「あの。。。婚約指輪を。。。」
「それはおめでとうございます!」
「あ,いや,まだ決まったわけじゃないんです。プレゼントと一緒にプロポーズしようかと。。。」
「あ~,よくあるパターンね!」
既に完全に彼女のペースである。
「サイズはご存知ですか?」
「え?サイズ?指輪にサイズがあるんですか?」
「伸び縮みしませんからね」
「ちょっと分からないんですが。。。」
「サイズのお直し,できますから」
そう言って,彼女の薬指のサイズをこっそり測る方法を教えてくれた。眠っている間に,糸を巻いて長さを測るんだそうである。
「あの,でも。。。眠ってる彼女と一緒に居たこと,ないんです」
「まぁ。。。じゃあ」
と,彼女は次なる作戦を伝授する。
「彼女,普段から指輪をはめてない?それを冗談っぽく『ちょっと貸してよ』と言って,自分の指に付けてみるのよ。どこまで入ったか,覚えておけばいいの」
と言って,店頭に並んだ指輪の一つを僕に差し出した。それを薬指に通すと,第一関節で留まる。なるほど。
ジュエリーショップを一旦あとにし,彼女とのデートの時,自然を装いながら彼女の指輪を借りた。それを指に嵌め,大体のサイズを確認するのに成功した。そして再びあの高級宝飾店である。今回は躊躇は無い。同じ女性店員が居てくれたのは,心拍数をやや下げる効果もあった。
「未来のお嫁さんの指のサイズ,確認できましたか?」
店のドアを開けると同時に,彼女は微笑みながら,僕に話しかけてきた。あの方法がうまく行った事を伝え,まるで馴染み客のように,軽やかにカウンターの椅子に座った。
「ええ,とてもうまくいきましたよ。このサイズでお願いします」
僕はショーケースの上に足を投げ出し,右足の親指を示した。
