クリスマス・キャロル

クリスマスイヴの夜,一人静かに酒を飲んでいると,どこからともなく老人の声が聞こえてきた。

「これから三人のクリスマスの精霊がお前に会いにくるであろう」

やがて,最初の精霊が現れた。それは過去のクリスマスの精霊であった。彼は静かに

「お前に過去を見せてやろう」

と言うと,手にしたビデオカメラをテレビに繋ぎ,再生モードにしてスイッチを入れた。

そこに写っていたのは,ウィスキーグラスを傾ける,数分前の自分の姿であった。

「過去ってこれか?」
「そうだ」
「どうやって撮ったんだ?」
「窓の外からこっそりと」

精霊がストーカーになる嘆かわしい時代である。3分ほどのビデオ上映を終えると,過去の精霊はキャビネットからグラスを取り出し,勝手に僕のウィスキーを飲み始め,そのうち高鼾で寝てしまった。

やがて次の精霊がやってきた。現在のクリスマスの精霊であった。珍しく美しい女性の精霊ではあったが,困ったことに酒癖が悪い。

「ちょっとちょっと,聞いてよー,あの過去のバカがさぁ。。。って、きゃー,こんな所で寝てるじゃない。あーははは。ばっかみたい。何よ,このいびき,うるさいわねー。あー,もうたまんない。そのタオル,ここに乗せましょうよ。きゃはははは,間違って雑巾乗せちゃったー。臭いものには蓋よねー」

こちらさんもかなり入っているようである。

「あ,そだそだ。現在を見せてあげるわねー」

そう言うと,ビデオカメラを撮影モードにしてスイッチを入れた。テレビ画面には雑巾の過去と,馬鹿笑いする現在,呆気に取られた自分の姿が写っている。なるほど現在を見ているわけである。全然おもしろくないが。

「ねえねえ,お酒ちょうだい。あ,いいや,あんたのグラスもらちゃお。ギャはは,貰っちゃったあ,全部あたしのよー」

現在が一人で大騒ぎにしている所に,まるで死神のような三人目の精霊が現れた。未来のクリスマスの精霊であった。これはちょっとした見ものである。一体どうやってビデオカメラで未来を写すっていうんだ? まさか自分を写しながら
「これが未来です」
なんてオチじゃないだろうな。

暗く沈んだ声で,未来のクリスマスの精霊は言った。

「おまえに未来を見せてやろう」

先ほど現在の精霊が録画モードにしたビデオカメラを一旦停止し,少しテープを巻き戻し、再生ボタンを押した。ちょっと前のこの部屋,一人大声ではしゃぐ現在の精霊がテレビに映し出される。

そして未来の精霊は早送りボタンを押した,画像が気忙しく動き続け,次第に現在時刻へと近づいてくる。なるほど,このまま早送りし続ければ,やがて現在を追い越して未来が映し出されるわけか。

画面は丁度未来の精霊が現れた頃である。もう少し。あとちょっとで現在が未来に取って代わられる,息を飲んだその瞬間…

突然テレビの中で高笑いする現在の精霊が消え,黒装束に包まれた未来の精霊に取って代わられた。未来が操作していたビデオカメラが床に転がり,テレビに閉じ込められてしまった未来は,何とか外に出ようと画面を叩いて必死である。

「あっはははー,未来ったらばーっかじゃないの。ったく機械に弱いんだから」

現在の精霊は,ビデオカメラを拾い上げ「停止」ボタンを押した。

「こうやって現在が未来に追いつくのを待ってればいいのよ」

テレビ画面は再び今現在のこの部屋である。全く目を覚ます気配の無い過去の精霊,ビデオカメラを手にした現在の精霊,そして自分。

やがて,画面向こう側の現在の精霊の動きが,こちら側の彼女よりも遅れているのに気づいた。こっちが未来であっちが現在である。今,自分はテレビの中にいる。

何とか外に出ようと,必死にテレビの画面を叩くが,びくともしない。向こう側の現在の精霊が,笑いながら床のビデオカメラを拾い上げ,

「あっはははー,未来ったらばーっかじゃないの。ったく機械に弱いんだから」
と笑いながら「停止」ボタンを押した。